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ビッグデータを制する者が、ビジネスを制す

2015/09/30 14:00
高橋 威知郎

ビッグデータを制する者が、ビジネスを制す

データは新しい原油である(Data is the new oil.)。そのように表現する人もいます。原油は、そのままでは価値を生み出しません。石油やガソリン、灯油などに加工することで、価値を生み出し莫大な富をもたらします。データも同じです。原油と同じように、データも加工次第で莫大な富を生み出す。そのような時代になりつつあります。石油王が出現したように、データで富を築く者が出現することでしょう。「データを制する者がビジネスを制する」のです。


湧き出るデータ

「ビッグデータ」は文字通り「大容量のデータ」です。最近、容量の大きいデータが増えています。泉から湧き出る水のように、色々なデータがどんどん湧き出ています。

では、どのようなデータが湧き出ているのでしょうか?

以前であれば、容量が大きいデータと言えば、購買履歴データや気象データが有名でした。現在もどんどん湧き出ています。
最近、ツイッターやフェイスブックなどのSNS(ソーシャルネットワークサービス)のデータ、スマホのGPS機能の位置データなど、身近なところから大量のデータが湧き出ています。刻一刻と、泉から湧き出る水のようにデータが湧き出ています。
湧き出るデータにも色々あります。企業であれば、財務データから工場の生産活動のデータ、材料の調達活動のデータ、営業日報のデータなど色々あります。家族であれば、家計簿や子供の運動会の写真、ビデオなど色々あります。入院していれば、毎日色々なデータが計測されます。電車に乗れば、PASMOなりSUICAなりに乗車駅と降車駅が記録されます。途中の売店でPASMOなりSUICAなりで買い物をすれば、それもデータとして残ります。


世の中には、本当に色々なデータが日々生み出されています。そして、これらを単に溜めているだけの人もいます。容量が大きいという理由で捨てる人もいます。一方で、これらを活用する人もいます。

図表 一部のデータしか活用されていない

データを活用するとはどういうことでしょうか。以前からの大容量データである購買履歴データで考えてみましょう。購買履歴データといっても、色々あります。

例えば、

  • 日々の店舗ごとの売上データ
  • POSデータ(レシートデータなど。何と何と一緒に買ったかが分かる。)
  • ID付きPOSデータ(さらに個人が特定できる。)
  • ネットショップ(アマゾンなど)のID付きPOSデータ(さらに購買前の検討状況が分かる。)
などです。

日々の売上データしか溜めていない店舗もあるでしょう。日々の売上データだけでも色々な知見が得られます。

例えば、

  • 季節と売上の関係
  • 気温と売上の関係
  • 棚割り売上の関係
などです。

単純な日々の売上データでも、他のデータと組み合わせることで、意味のある知見と次の打ち手を得られます。

例えば、
  • 夏に売れる商品が分かれば、夏に売ればいい
  • 雨の日に売れる商品が分かれば、雨の日に売ればいい
などです。

夏にアイスキャンディーが売れていそうだから、 アイスキャンディーをたくさん仕入れて売る、ということです。データを見るまでもなく、何となく感覚的にやっていたことでしょう。しかし、人間の能力にも限界があります。夏に売れる商品をすべて知ることはできません。勘違いの場合もあります。データを見れば、夏に売れる商品を勘違いすることなく知ることができます。


図表 「感覚的に知っていたこと」と「データで分かったこと」

日々の売上データのような単純なデータでさえ色々と活用できそうです。データ活用は、アイデア次第です。活用するには、少なくとも発生したデータを溜めなければなりません。溜まっていないならば、これから溜めれば良いだけです。

現在、泉から湧き出る水のようにデータが湧き出ています。これらのデータをいかに活用するかは、アイデア次第です。まだまだ活用しきれていません。これは非常に大きなチャンスです。


日本で、ビッグデータが話題に?

2011年末から2012年にかけて、日本で急にビッグデータが話題になりました。

なぜこの時期なのでしょうか?

私は、2つのことがきっかけになったと考えています。米国政府の発表とNHKの番組です。
2012年3月、米国政府が「ビッグ・データ・イニシアチブ」を発表しました。6つの政府機関を中心に2億ドルを超える予算でビッグデータに関連する技術を、さらに発展させていくというものです。


図表 米国のビッグデータの方針

このニュースで、初めてビッグデータというものに関心が向いた人も多いでしょう。私もその一人です。正直なところ、色々な疑問が湧きました。米国企業には、googleやAMAZONといった、大容量データを上手く活用することで成長した企業が多いです。ほっておいても勝手に強くなっていくのではないのか。なぜ、そこまで国として注力するのか。

そこで1つのことに気が付きました。どうしてもすぐには追いつけないことが1つあります。それは「人材」です。データ活用は、最終的に人がキーになります。人材は、すぐには手に入りません。すぐにも成長しません。当たり前と言えば当たり前のことです。

データを「何かしらの価値」に変換するには、データを活用する領域(企業であればビジネス領域)の知識は欠かせません。単にデータに詳しいだけでは不十分です。試行錯誤の経験が必要です。失敗し、成功し、失敗し、試行錯誤します。そこで、データを活用する領域(企業であればビジネス領域)におけるデータ活用の「感覚」を養うことができます。

そのような人材は圧倒的に不足しています。最近は「データサイエンティスト」と呼ぶそうです。米国では、そのための大学院設立の動きもあります。そのぐらい重要で、すぐに育成することが難しいのです。

2012年5月、NHKで特集が組まれました。クローズアップ現代「社会を変える"ビッグデータ"革命」という番組です。米政府の発表に遅れること数か月後のことです。非常に素早い動きで驚きました。

日本語で、しかも映像付きで、ビッグデータの話題に多くの人が触れることになりました。日本で急に話題なった大きな要因の一つと考えられます。

ここで、この番組で取り上げられた日本の事例を2つ紹介します。データ活用のイメージがつくと思います。私の経験と見解も交えて紹介しますので、少し番組の内容とは異なるかもしれませんが、ご了承ください。


紹介するのは、

  • ローソンのID付POSデータを使ったコロッケの事例
  • カーナビのデータを使った埼玉県の道路交通事故対策の事例
の2つです。

ローソンのID付POSデータを使ったコロッケの事例を紹介します。ID付POSデータとは、個人が特定できる購買履歴データです。

簡単に、データの取得の仕方を説明します。商品を購買する時にポイントカードを提示します。その人にポイントが付与されます。同時に、その人が何を買ったのかというデータが取得されます。

ローソンではPONTAというカードを発行しています。4,000万人以上が利用しているそうです。この4,000万人の日々の購買履歴データが蓄積されることになります。非常に膨大なデータです。

番組では、ローソンで人気の「コロッケ」の事例が紹介されていました。コロッケを繰り返し購買しているのは誰か。見つかった答えは「60歳以上のシニア層」でした。コロッケをフックにして、シニア層をローソンに呼び込める(来店頻度が増える)可能性があります。シニア層をターゲットにしている店舗で夕飯時にコロッケを今までよりも多く並べてみました。結果、コロッケのリピート率が高まったそうです。狙い通りです。

データから意外な結果を導き出し活用した、と言うことになります。もしかしたら、店員さんは「なんとなく分かっていた」のかもしれません。データで明らかにすることで、その「なんとなく分かっていたこと」に自信を持つことができます。


図表 データは「何となく」を自信に変える

次に、カーナビのデータを使った埼玉県の道路交通事故対策の事例を紹介します。

この事例は、人から発生するデータではなく、物から発生するデータを利用します。カーナビのシステムから取得する走行データです。

データを分析することで、急ブレーキの発生箇所が特定の場所に集中していることに気が付きました。ドライバーが危険を感じ急ブレーキを踏んだ、と分析者は考えたようです。その箇所を中心に事故対策を考え実行しました。ドライバーの視界を妨げていた樹木の伐採、ドライバーに注意を喚起させるために道路上にラインを引く、などです。その結果、事故が減ったそうです。前年度比2割減です。非常に素晴らしいです。

県の担当者も、事故が起こりそうな箇所の幾つかは知っていたことでしょう。しかし、全部は知らなかったはずです。データを活用することで、それを知ることができ対策を打てた、

と言うことになります。

この2つの事例のデータは、質が違います。最初の事例は、人の意識したところでデータが発生し収集されています。2つめの事例は、人が意識していないところで、物がデータを発生させ収集しています。人が意識していないところで、物が大量にデータを生み出し蓄積する。意識していないので、溜まりっぱなしのデータもあることでしょう。

データの分析結果は、その結果だけを聞くと当たり前のように感じることが多いです。思いもしなかったことを発見することは稀です。大事なのは、結果を当たり前と思うことではなく、結果そのものを生みだし、そして自信を持って活用することです。それは、コロンブスの卵に似ているような気がします。


データは新しい原油である(Data is the new oil.)

原油は、そのままでは価値にはなりません。一旦加工することで石油となり重油となりガソリンとなり灯油となり軽油となり、何かしらに利用され価値を生みます。

データも原油と同じです。そのままでは価値にはなりません。データの取得・蓄積・処理のインフラなどが整っていても、それだけでは価値にはなりません。加工し活用され価値になります。非常に単純なことです。そして、とても難しいことです。

価値を生むのは人です。単に、データとツール、最新鋭のコンピュータを揃えただけでは価値は生まれません。当たり前のことです。人が価値と感じなければ価値とは言えません。人なしでは価値を創造することすら出来ません。

企業によっては、

  • ビジネスの現実問題に精通している人材
  • データに精通している人材
  • ツールに精通している人材
などを一人の人が備えていることは稀でしょう。

重要なのは、それらを結び付けることです。バラバラである限り価値は生まれ難いです。それぞれが調和することで、価値は生まれ易くなります。その調和のキーになる人材が必要になります。先ほど述べた「データサイエンティスト」です。後程、触れます。

原油とデータの相違点の中で、最も重要なことがあります。原油は埋蔵している場所はすでに決まっています。データは長年蓄積してきたデータ(埋蔵されているデータ)だけではありません。これから埋めることもできます。これが大きな違いです。無ければ仕込み埋めればいいのです。それだけです。

データは取り続けることが大事です。どんどん取り続ければ、どんどん埋蔵量が増えます。凄いことです。埋めるための環境が整ってきました。技術の進歩のお蔭です。活用するための環境が整ってきました。秘術の進歩のお蔭です。しかし、どのように価値変換するのかは人次第です。

ビッグデータの時代、アイデア勝負の時代でもあります。どのような価値をデータから生ませるのか。そのために、どのようにデータを仕込み埋めるのか。色々なことが考えられます。まさにアイデア次第です。データは新しい原油である。まさにその通りだと思います。石油王が出現したように、データで富を築く者が出現することでしょう。「データを制する者がビジネスを制する」のです。